前号の『横浜シーサイダーマガジン』では、横浜を代表する藤原一繪教授を紹介し、世界的に注目を集める森林造成手法「宮脇方式」に焦点を当て、彼女の研究を詳しく取り上げた(まだ読んでいない方は、本誌ウェブサイト www.yokohamaseasider.com から無料のPDF版をダウンロードできる)。本号では、その特集の第二弾として、藤原教授ご本人へのインタビューをお届けする。
どのようなきっかけでこの分野の研究やお仕事に携わるようになったのか、教えていただけますか?
学部の卒業論文で、宮脇先生から「高層湿原における人間の影響で変化した植生」という課題をいただきました。調査を進める中で、湿原はすべて自然のままだと誰もが信じていたこと、そして世界でまだ誰も調べていなかったことを知りました。その発見が、新しい気づきであり、自然と人間との関わりに魅かれるきっかけとなりました。先生からは「君は女の子だから、きれいなお花畑を調べなさい」と言われてこの課題を与えられたのですが、結果的にそれが、生涯にわたって植生と関わるきっかけとなりました。
宮脇博士との関係についてお聞かせください。博士から学ばれた貴重な教えには、どのようなものがありますか?
宮脇先生からは、たくさんのことを学びました。第一に、自然を見る目を養うことができました。自然であるか人間の影響があるか、日本だけではなく世界のどこへ行っても、緑環境を見れば判断できます。さらに、どのような人間活動や動物の影響によって、目の前の緑の環境が形成されているのかを理解することができます。第二に、どこでも森に戻すのではなく、目的にあった緑環境を計画することの大切さも学びました。第三に、かつて森であった場所が荒廃してしまっても、森を再生することは可能であると教わりました。最後に、植物社会の掟(植物は我慢、競争、共存して生きている)は、そのまま人間社会にもあてはまるということを学びました。
現在、藤原教授は宮脇方式を受け継ぐ立場にいらっしゃいますが、この手法の中で、教授ご自身が果たしてこられた独自の貢献について教えてください。そもそも、教授にはご自身の研究分野もおありですから、その点も含めてお聞かせください。
大学院生とともに、宮脇方式のさまざまな側面を明らかにしてきました。具体的には、植栽後にどの程度の木が生き残るのか、高木種を植えた後にどのような新しい種が加わり、森の構成を形づくっていくのかといった研究です。私自身の研究分野は、日本と世界各地における、森林破壊後の荒廃地に残る自然林の解明です。したがって、まず世界中のどこにおいても自然林が何故あるのかをつきとめて、それに対応する森づくり手法を現地の人々とつくりあげます。
教育者として、学生に対して特に重視して伝えているポイントはありますか?
目の前の植生(緑)がなぜ成り立っているのかを理解してもらい、そこから日本や世界との共通点への理解へと発展させます。そして、地球温暖化や異常気象、自然災害といった環境問題について考え、自分に何ができるのかを考えてもらいます。
世界を旅する中で、教授ご自身が体験された印象的な出来事や特別な経験について教えてください。
宮脇先生を隊長として、1977から1979年の3年間、タイのマングローブ林を詳細に調査しました。水に胸まで浸かり、泥の中をもぐりながらマングローブ林を目指し、高脚ガニのようなマングローブの根の上を渡り歩いた経験は、世界のマングローブ林を理解するための重要な手がかりとなりました。また、大学院生の研究指導では、熱帯林の調査中に高木を見上げて調査している際、戦闘アリの巣に片足を入れてしまい、痛みのあまり大騒ぎしたこともありました。ツンドラ調査では、高層湿原の植物が高山植物とともに生育しているのを目にし、感激したことを覚えています。しかし同時に、あまりにも蚊が多く、調査員たちの背中が蚊で真っ黒になるほどで、軍手をはめてその蚊を叩きながら歩いていたところ、ロシア人の研究者から「生態系の破壊だ」と言われたこともありました。
宮脇方式が最も成果を上げているのは、どの地域、またはどの事例でしょうか? そして、その理由は何だと思われますか?
工場砂漠の中で、工場の周りに森が再生し、働く人々の憩いの場になっている事例があります。また、学校では生徒たちが自ら植樹をおこない、その後の森の成長を調査した事例もあります(現在は教師が多忙で、指導が難しい状況にあります)。さらに、かつて植えた木が全く育たないと言われたネパールやケニアの荒廃地でも、わずか5年で森が戻ってきました。そして、津波の被害を和らげる緑の防潮堤もその成果の一つです。その理由は、宮脇方式が自然林を構成する樹種を用い、ポットの中で根が十分に発達した幼苗を、隣り合わせに異なる樹種をランダムかつ密に植栽する点にあります。成長戦略の異なる植物同士が互いに干渉せず、光を求めて競い合いながら成長するため、間隔を広くとって植える場合に比べて2倍以上の速さで成長し、共生する密な森が形成されます。一方で、間隔を広くとって植えた場合は、1本1本のメンテナンスが必要となり、肥大してしまうため成長が遅くなります。宮脇方式では、植栽前に排水性を確保し、ある程度の肥料が入った基盤を整えることで、森の土壌に近い環境をつくります。その結果、狭い面積でも密な森が形成され、5〜10年で若い森へと成長します。排水のよい肥沃な基盤を築くことにより、荒地であっても森の再生が可能になるのです。
今後、この取り組みや関連する研究はどのような方向に進んでいくとお考えですか? また、新たに取り組もうとしている研究分野や探求のテーマがあれば教えてください。
都市計画、建築、景観科学、林業などに取り入れることで、環境汚染や地球温暖化の対策、異常気象や災害の緩和に役立てることができます。
特に子どもたちは、宮脇フォレストの活動に関わることで希望や充実感を見出しているようです。それはなぜだとお考えですか?
小さな苗木を植えることは、命を地球に植えることに繋がります。土に触れ、風にそよがれ、太陽の光を浴びる。そのような五感を通した体験が、植えることの楽しさを感じさせてくれます。さらに、雑草取りや成長調査をともにおこなうことで、森の成長を身近に体験することができます。森に住む土壌動物や昆虫、鳥を観察したり、森の中と外(裸地)の温度を比較したりすることを通して、森の発達や生物多様性、生態系への理解につながります。
横浜にいる読者の皆さんが、この取り組みを支援したり、自分たちで活動を始めたりするには、どのような方法がありますか?
横浜市には、市民活動や地域活動を支援する制度があります。例えば、「地域緑のまちづくり事業」では、地域が主体となって環境分野で取り組みを進め、住宅地や商店街、オフィス街、工場地帯など、さまざまな場所で地域にふさわしい緑を創出する計画を立て、市民協働による緑化活動に助成金の交付されます。また、「森を育む人材の育成事業」では、市民や事業者と市が協働して森づくりを推進するため、森づくり活動に取り組む団体などを対象に、活動に必要な支援や助成金の交付をおこなっています。横浜の読者の皆さんも、有志で集まり、地域でどのようなことができるかを考え、実際に行動を起こす機会があります。まずは挑戦してみましょう。そして、全国でおこなわれている森づくり活動に参加してみてください。世界各地でも同様の取り組みがおこなわれています。一度参加すれば、新しい自分に出会うことができるはずです。
藤原教授、本日はありがとうございました。
